「喉を詰めるな、開けろ」
ボイストレーニングの世界では、よく聞く言葉です。
ですが、この言葉が原因で、
かえって声を壊したり、高音が出なくなったりする人が、
とても多いのも事実です。
なぜなら、
「どこが、どう詰まっているのか」
「何を、どう開けるのか」
その前提となる構造の説明が、ほとんどされないからです。
誤解を恐れずに言います…喉は「詰める」必要があります
誤解を恐れずに言いますと、
喉は「詰める」必要があります。
「え? 喉を詰めるな、と言われてきたけど…」
そう思われた方も多いでしょう。
ただし、それは上下方向に、です。
顎の下から胸の方へ、上から下へ。
これは、苦しく力任せに締めるという意味ではありません。
体をひとつの楽器として成立させるための「接続」です。
(=体の楽器化)
この楽器化こそが、基礎の基礎です。
ここから全てが始まります。
楽器を用意することなく、発声法や呼吸法は身につかないのです。
「詰める」とは、水道管をきちんと接続すること
ここで言う「詰める」とは、
2本の水道管のパイプを、
きちんと嵌め込み、接続する行為に近いものです。
(ここでは、喉のパイプを胸側に接続するイメージ)
簡単に説明しますね。
下のフルートの図を見てください。
管が外れていますね。
これは誰が見ても、楽器が成立していないので、
嵌め込む必要がある。
人間の場合、これが喉の管を下方向へ、
つまり胸方向へ嵌め込むのです。
これは奥へ向かって、喉を詰めるイメージが必要なのです。
この接続が甘いと、
水道なら水漏れが起こります。
人間の場合は、
息漏れが起こります。
息が抜けるだけでなく、
水圧が下がるように、
息の圧力そのものが落ちてしまうのです。
喉を開けろ、力を抜けの危険性
もちろん、喉の接続には、力が要ります。
接続の力を抜いたり、管を外すことだと、勘違いする人が大変多いのです。
普通の楽器ならあり得ませんが、
人間は管が内蔵されているので、
こういう間違いが起きるのです。
息圧が落ちると、人はどこで調整するのか
息の圧力が足りない状態で声を出そうとすると、
人は無意識に、別の場所で調整を始めます。
たとえば、
・舌根を持ち上げたり、口蓋垂を硬くすること=喉の出口で呼吸をコントロールする
・必要以上に気道を締め上げる
こうして、なんとか声を出そうとします。
結果として、
声帯に大きな負担がかかり、
喉を痛めたり、高音が出なくなったりするのです。
舌根が上がる原因と「舌根を下げろ!」の危険性
舌根で息をコントロールするということは、
すでに息が、声帯を通過した後でコントロールしていることになりますよね。
この時点で声帯に良い息は与えられていません。
しかし、「舌根を下げなさい!」なんて言っても意味がないんです。
管の接続をしないで、舌根を無理に下げると、
外れた管と、舌根が押し合って、苦しくなるばかりです。
原因ではなく、結果だけを修正しようとして、袋小路に陥る…
声楽レッスンや、ボイトレで、あるあるの話です。
これは人間だけの話ではありません
これは、人間に限った話ではありません。
あらゆる楽器で、同じことが言えます。
各パーツがしっかりと嵌め込まれていなければ、
その楽器本来の持ち味は出ません。
特に、
リコーダー、クラリネット、フルートなど、
管を接続する構造の楽器は、
システムとして人間にとても近いでしょう。
人間は、楽器の部品を、職人さんの手に委ねることができません。
自分の体を、自分で組み立てるしかないのです。
人間は、自分の体を自分の力で楽器化するのです。
だからこそ、唯一無二の声と表現、
あなたにしかできない、歌やセリフが生まれるのです。
息圧が強いほど、接続は外れやすくもなる
息の圧力が強ければ強いほど、
高い声や、強い声が出る可能性は広がります。
しかし同時に、
嵌め込んだ喉の管は、外れやすくもなります。
外れてしまえば、
当然、強い声も高い声も出ません。
それでも、
外れた後で一生懸命頑張る人が多いのも事実です。
繰り返しになりますが、「喉を開けろ」=この接続を外すことだと
勘違いする人も多いため、
外れている状態で頑張ってしまうことは珍しくないのです。
頑張るのは、外れた後ではありません
頑張るのは、外れた後ではありません。
外れる前に。
外れないように、です。
外れないようにする力。
それが、
・パイプを締め込む力
・上から押し込む力
・すなわち「喉を詰める力」
この力があるほど、
強い息の圧力にも耐えられます。
ちなみに、人間は、適切に、管を接続しようとすると=詰めようとすると、
その直前に自動的に、息をちゃんと吸うようにできています。
理由は、吸わないと、ちゃんと詰められないから、という単純なものです。
呼吸法などは本来、こうして自然に覚えるものなのです。
こういう実践をレッスンでやるべきなのです。
バランスが取れたとき、音色は自然に変えられる
息の圧力。
下からの支え。
そして、喉を詰める力。
これらが押し合い、拮抗することで、
声帯に、バランスの取れた息が集まります。
そのバランスの変化によって、
・強い地声
・ウィスパーボイス
・ファルセット
といった、
さまざまな音色を使い分けることができるのです。
実はそのとき、舌根は自然に下がっています
ここで、よく誤解されるポイントがあります。
これができると、
むしろ舌根は、自然に下がります。
無理に下げる必要はありません。
そして、
「口の奥」という意味での喉は、
とてもよく開くのです。
詰めることと、開くことは、
本来、矛盾しません。
方向が違うだけなのです。
まとめ & 次回予告
今回は、体の楽器化という視点から、
本来の意味での「喉を詰める(接続する)」ことの重要性について書いてきました。
喉を詰めることと、喉が開くことは、
実は矛盾するものではありません。
ただし、方向と意味を取り違えると、
何年頑張っても声が変わらない、
あるいは、途中で声を壊してしまうことも起こります。
次回は続編として、
レッスンでもよく言われる「喉をあけろ」「喉を締めろ・締めるな」の正体について、
さらに具体的に解説していきます。
接続することがわかれば、喉をあけるってこういうことか、
声帯を閉じるってこういうことか!
色々見えてきますよ。
なぜ、
何年経ってもうまくならない人がいるのか。
そして、ある日突然、声が変わる人が出てくるのか。
その違いについても、
レッスン現場の視点から書いていきますね。
参考動画(体の楽器化・喉の接続)
●腹式呼吸も自然に始まる体の楽器化について
●体も開く喉の開け方
喉の開け方とありますが、実はちゃんと詰めることによって、舌根周りが開くという、解説動画です。

