ボイストレーナーの浜渦です。歌や演技に限らず、多くの芸術表現は、自分の感動を相手に伝えるのがその本質です。しかし、どれだけ頭の中で感動していても、それが相手に伝わらなければ残念ながら意味がありません。どんなに高い声が出て、うまく歌えているつもりでも「ただ歌っているだけ」になってしまい、「うまいけど、もう一回は聞きたくない歌」というようなことになりかねません。歌は、感動を「からだ=呼吸」に宿して「目的地=相手」に向かって届けることができれば、その目的はほぼ達成されたも同然です。
感動の中でも体と呼吸で簡単に表現できるのが驚きです。この驚きのフォームを覚えてしまってくださいね。
驚きのフォームでできるようになること
箇条書きにしますと
- 息漏れがなくなり、少ない息でロングトーン(長く伸ばす)ができるようになります
- 喉を痛めなくなります
- 感動が声に乗りうつります
- 自分の声を客観的に聞けるようになり、コントロールが楽になります
- 音域・音色の幅と自由度が増えます
…他にも色々メリットがありますが、こうしてみると、発声の基本ここにあり、という感じですね。
自然なのはどちらのフォーム?
さて、こちらにある一枚の写真、どちらが「人が自然に驚く時のフォーム」と言えるでしょう。(モデルが悪くてすみません)
答えは左です。広がっている位置が明らかに違いますよね。
説得力と感動は脇腹に!「呼吸の支え(ささえ)とは?」
左は、背中が丸くなっていますが、これは脇腹が広がった証拠です。熱いヤカンに手を連れた時や、急に脅かされた時など、脇腹の後ろ側を中心に上に向かって広がるのです。この状態をキープし続けるだけで、感動や想いが呼吸として体にキープされます。これだけでみなさんの声は、良い人はより感動的に、喉が痛くなったり、枯れたりする人も改善されるはずです。
ちなみに、胸をこのあとに起こすことで、重心が下がり、前から見ると自然にカッコ良いフォームになります。
一方右側は、驚いては見えますが、脇腹の後方はむしろ萎縮してしまっています。お腹が突き出ていますよね。見た目は右側の方が良いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、右側のフォームになってしまうと、民謡やお経はできても、声楽やポップス・ロックをはじめとしたボーカル、声優・俳優といった喋りの表現では自由度が限定されてしまいます。(この辺りはレッスンで実践解説をさせていただいています。)
「驚いた時、私は右側だ!」という方もいらっしゃるかもしれませんが、自然な感動表現という点では(とりわけ舞台上では)ちょっとわざとらしい表現となります。例えば女性がプロポーズされて、驚いたふりをするときは右側になるでしょう。そして本当にびっくりしたときは左側になるのではないでしょうか?もちろん100パーセントではありませんが…
脇腹の広がる方向、普通の腹式呼吸とは別物!?
以下の写真の方向です。この写真では正面からのものですが、広がるのは主に背中側です(後日写真を追加しますね)。この広がった左右の上方に広がったところに呼吸が入っていくイメージです。丹田(たんでん)中心の腹式呼吸法とはかなり違うものとなります。
表情も発声に大切!?その理由とは??
写真では表情も驚いた顔をしています。よく響きのために表情筋を上げろと言いますが、確かにそれも一理ありますが、むしろ、表情筋をあげるときに、相対的に喉の位置が下がることの方が重要なのです。よく「遠くを見て歌え」と言いますが、この表情のことです。よく間違えて、視力検査のような目をする方がいらっしゃいますが要注意です。
これで、下がった喉と上がった脇腹で呼吸がサンドイッチされるイメージです。
感動の呼吸は歌う喜びとテクニックを導き出す
驚きは再現しやすい感動の一つです。これを覚えれば歌は何倍も感動的になるだけでなく、楽しくなります!そしてテクニックはあとからあとから自然に身についていきます。
なぜなら、この呼吸のフォームに、響きやミックスボイスミドルボイスと言われているテクニックがすでに内包されているからです。
「なるべく楽をして、手軽にカラオケの点数をあげたい」その気持ちはわかるのですが、それでは学校のテストの偏差値を追っているのとあまり差がありません。どうか、歌だけでなく、日常のシーンで、プレゼンなどでも感動で個性を発揮してください。
地声中心からファルセット中心の発声へ変化します
この脇腹を開くことと、その状態をキープしたまま、胸を少しあげて、落ちないようにキープすると、声は地声よりもファルセットの方が出しやすくなります。落ちていても裏声を簡単に出せる方もたくさんいらっしゃいますが、それは喉を疲弊させてしまいます。
ファルセットに地声が混ざっていくのを待つ!
よく「地声に裏声を足す」「ミックス・ミドルボイスの練習」をすればうまくなる!というようなことが言われますが、それは本当にやめてほしい謳い文句です。本気で舞台人、またはボイストレーナーをやっていれば出てくるはずがない言葉だと思います。
繰り返しになりますが、それらは感動した時の呼吸をキープすれば、自然に身につくものだからです。
テクニック先行の危険
テクニックから入ると、短期的には高い声は出しやすくなりますし、歌いやすくもなります。実は私自身、その禁断の果実を自分で開発し実践していました。実際まるで音域の出ない私も音域が広がり、喉も楽になってさぞや上手くなる…と思ったのは幻想に過ぎませんでした。
色んな曲が歌えるようになったものの、じわじわと声が痩せていきます。そしてまさに出ているだけの高い声であって、最初は喜んで歌ってはいたものの、まるで感動がないことに次第に気づき、本当に焦りました。それを取り戻すには大変な苦労がありました。すぐに身についた小手先のテクニックに頼る癖がついてしまったからです。
お手軽なものには常に罠があります。もちろん否定するわけではありません。しかし高い声や大きな声に憧れて、早く答えを出そうとすると、落とし穴にはまります。高い声や大きな声は、本来どういうときに出るのかを今一度考えてください。感動したり、怒ったり、笑ったり、そこには感情が常に伴っているはずなのです。
みなさんのご検討を祈ります!!
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