ボイストレーナーの浜渦です。いきなり父の話で恐縮ですが、彼から教わったことは数える程しかないのですが、どれもが今となっては私に大きな影響を及ぼしているなあと思います。その中でも「楽譜通り歌うな」というものがあります。
ちょっと誤解を招きそうな表現ですが、まずは「楽譜通り歌うな」とはどういうことかを解説させていただきますことで、このあと解説させてただきます「楽譜と自分の表現を融合させる練習法」がよりわかりやすくなると思います。
この練習法はレッスンで実践しております「浜渦メソッド」の一つです。自分の歌を「お客さんの耳」のように客観的に聴けるようになることで歌唱が上達し、自分が本当に歌いたかった、表現したかったものが見つかります。また音色や音程の微妙なコントロールが可能となり、高い声はもちろん、音域も広がっていくことを「だからそうなるんだ」と腑に落ちてご理解いただけると思います。つまり、理由のよくわからないまま、体を使わない対症療法的な高い声を出したり、「うまく見せたり」する訓練ではなく、人間の表現の基礎に根ざした練習法です。
楽譜から離れろ
「楽譜から離れろ」「楽譜通り歌うな」・・・とは???
「楽譜通り歌うな、演奏するな。音程からリズムから楽譜からどれだけ離れるかだ。」と今は亡き親父に言われたな。離れすぎて破綻すると当然また怒られるんだど(笑)
親父からは殆ど何も教わらなかったけれど、これは僕の生徒さんにはきっちり伝えてるよ。もちろん親父よりずっとわかりやすくね(^_-)— ボイストレーナー浜渦弘志 (@h_hamauzu) November 19, 2019
「楽譜から離れろ」…これは、覚えろ(暗譜しろ)という意味ではありません。楽譜にあるのは、あくまで作曲者からのメッセージであって、そのまま、なぞるだけでは意味がない、だから離れろ、という意味です。
また「楽譜通りに歌うな」といいましても、デタラメをやるわけではありません。時にゆったりしたくなったり走りたくなるという、自分の表現の大きなエネルギーを保ちつつ、ギリギリ、付かず離れず、追い越しそうになったら、ブレーキをかけ、遅れそうになったらアクセルを踏んで追いかけるということ…後年私はそう、理解しました。この理解は間違いではない思います。
つまり「自分の表現も楽曲も殺さず、両方生かして融合させよう」ということに尽きるわけです。
多くの方が、ただ遅れないよう、急がないようにする結果、自分の表現を殺してしまう。楽譜上の音程が、歌詞が、リズムが合ってれば良い、という歌い方になってしまうのです。もちろん、それではつまらないので、変に崩してみたり、不自然なしゃくりを入れてしまっては…あまり批判的なことは書きたくないのですが…^^;
私は、生徒さんに「自分の表現」と「楽譜」との融合ができるように指導させていただいています。まず自分の表現があって、それを失わないように、楽譜に融合させるということです。
自分の表現(思わず出る声)と楽譜を融合させるオススメの練習法
ちょっと話が逸れますが、オススメの練習法があります。
喋り(朗読)と楽譜に分けて、徐々に融合する方法
それでは、自分の表現と楽曲を融合する方法の手順をご紹介します。まず簡単な手順です。
- 手順1歌詞を思い切り自分の表現で喋る・朗読するまず自分らしく気持ちを溜めてから「喋る」こと。多少の発音は気にせず、イントネーションは標準語でも関西弁でも自由。
- 手順2手順1のイントネーションを音符の動きに近づけるこの時、リズムはまだ適当に。音程も楽譜通りになってしまわないよう、あくまで自分のイントネーションを9割は守りながら。
- 手順3手順2を繰り返し少しずつ楽譜に近づける回数を重ねるたび、イントネーションと音程、喋りのリズムと楽譜のリズムを近づけていき、「歌」と「喋り」の中間をめざします。
- やってみよう1一定のテンポで手順3を試すメトロノームやカラオケでなど一定のテンポを刻みながら、楽譜から外れないように朗読してみたり、手順3をやってみる
- やってみよう2どんどん楽譜に近づける自分の表現(手順1)を失わずにどこまで楽譜に近づけるか試してみましょう。面白いことに自分の表現を失った瞬間「自分で気づきます」
- やってみよう(発展)楽譜にとことん近づけたら今度は離れる表現を守りながら楽譜に近づけたら、今度はどこまで楽曲として破綻せずに離れられるかを試してみる中で、自分らしさ、音楽の崩し方とは何かを覚えます。
練習のポイント1「思わず出る声」
これは浜渦メソッドの根幹になりますが、自分らしく気持ちを溜めて話すために必須となるものがあります。それが「思わず出る声」です。
人が(多くの動物も)心から感動した時や驚いた時に、無意識にでる「感嘆の声」です。「定まった音程がなく」「体→息→声」「体>息>声」の原則があり「浮き上がったように聞こえる」のが特徴です。そしてこれが本当に伝わる歌やセリフや朗読ができる人全てに共通する必須項目なのです。
人は感動した時に、深い息を吸います。しかし深いと言っても、単なる腹式呼吸ではありません。脇腹を広げながら持ち上げるような、多くの人は、日常ではそんなにしていない呼吸です。
実はその状態をキープしたまま、息を吐くことで感情は自分の体の中から表へと出て行きます。この時、感動した体の状態を守ったまま呼吸を可能とするのが腹式呼吸なのです。さらにその呼吸に声が乗ることで感動はより明確な形で表現されるのです。その声になる瞬間に「思わず」という感動があります。
これは通常のボイトレや声楽レッスン演技レッスンでは、気持ちや才能に委ねられ、教えてもらえないことです。その問題を解決し、才能に関係なく、誰もが気持ち良く伝わる歌を歌うために開発され今も進化し続けているのが浜渦メソッドでなのです。
この思わずの声ができて、初めて、自分らしく自由に話すことができます。
練習のポイント2
ポイント。手順1は、感情はたっぷり、でも声やイントネーションは大げさにならず、なるべくさらっと読んでみます。手順2では、ほんの少しずつ近づけること。手順3では、テンポを刻みながらも、その中で大きく外れないように自分のリズムで話したり、音程に近づけるかを試します。ここに「崩して歌う」「奇をてらったり、破綻はしていないが自分らしさも保つ」という「楽曲との融合」が始まります。
「翼をください」でやってみよう
歌えば8秒くらいかかるフレーズも、喋ると2秒とかからず終わってしまうものはたくさんあります。「翼をください」なんてそうですね。
「いま私の願い事が」
これで歌えば10秒(16拍4小節)くらいかかりますが、さっと話せば3秒もかかりません。まずは2~3秒で良いので、しっかり自分を表現して喋ります。
これを上の手順で楽譜に近づけていきます。
もしカラオケを流せたら(または弾き語り)なら、オケのスピードはそのままに、「いま私の」「願い事が」を話すスピードで入れます。
もちろん、16拍もありますからたくさん時間があまります。ですから、何処かで溜めを作ったり、間を作る必要があります。朗読をする時に、決まった長さのBGMを流し、曲終わりで朗読も終わるように読むことがありますが、そのようなイメージです。
もし私が読むとしたら、こんな感じでしょうか。上が楽譜通りに歌った感じです(なんかうまく書けずにすみません^^;)。この朗読の方にある「…」が想いを溜める間なのです。
この朗読が自分の今できる表現、そして、これを楽譜上のつまり、図で言うと上の「歌唱の」方に、少しずつ近づけるのです。こうすることで、だんだんと楽譜と自分の表現が混ざっていきます。
この練習法の効果は絶大です
これは私が考え出した、独自のレッスン法です。このレッスンを実践していただいた多くの方から聞かれる面白い言葉があります。それは・・・
いや実はそれまでも、こんな風に歌いたいというのはあったのです。しかし、それは誰々ように歌いたいとか、もっとうまく歌いたいとか、漠然としたものや、恥をかかないための、というようなとても消極的なものだったのです。
自分の歌を客観的に聴けるようになるから上達する
自分の表現を捨てずに楽曲と融合させれば、本当にみなさん、うまくなります。上達します。それは自分の声を客観的に、つまり、お客さんの耳で聴けるようになるからです。客観的に聴けることは本当に大きな効果をもたらします。
- 微妙な音程や音色のコントロールができるようになる
- 自分の歌のスタイルが見つかる
- 苦手な曲も表現の仕方がわかる
- 自分で自分にいろんな提案ができるようになる。
- 喉ではなく、体で音程を作るようになり、音域や音量が伸びる。
- 音痴が改善
特に高い声が苦手な方は、自分の表現が用意できる前に、苦手意識から、あわてて、その最高音を出してしまう場合がほとんどです。自分の表現を優させると、驚くほど楽になります。
高い音が4拍続くとすると、表現がない人は、1拍目から無理に出そうとして失敗します。しかし表現を守る人は「最後の1拍だけでもいいからと」先に自分の「表現を溜める間」をつくり、楽譜と融合、つまりその音域が出る準備が整うのを待つのです。ここに最初はゆっくりな曲の方が良いという理由もあるのです。
父(浜渦章盛)について
最後に恐縮ですが、私の父について。
私の父(浜渦章盛)は、声楽家であり、作曲家であり、シンガーソングライターであり、台本や演出もこなし、そもそもは、学生の頃(高校だったかな?)からクラブなどでピアノを弾き、TVの司会やラジオのパーソナリティ(リクエストに答えて、オールジャンルを歌うコーナーもありました)などもやっていた、私など到底追いつけない、すごい人でした。と、身内が言っても、信憑性が薄いのですが^^;
幼少期は大変貧しく、小中学校で10数回の転校を余儀なくされています。彼がピアノと出会ったのは、中学の頃、学校のピアノを弾かせてほしいと先生に頼んだところ「毎朝、始業前に欠かさず練習に来るなら」という条件をつけられ、それを果たし、ピアノの鍵を貸与されるようになったそうです。
当然楽譜は買えません。ですから、学校で流れる音楽や、吹奏楽部が演奏する曲を耳コピし、片っ端から弾いていったそうです。
彼にまつわるエピソードはまた改めて。自身が設立させたローゼンビート少年少女合唱団に番長グループがやってきて、更生のため(?)合唱団に入団した、メンバーを取り返しに来た番長とのタイマンの末、いつの間にかグループ全員が入団していた話など、本当にエピソードがつきない面白い人でした(笑)
ずいぶん前の私の兄の記事ですがご参考までにリンク先をご紹介します。いろいろなエピソードが記載されています。
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