「適当に歌っていいよ」
これ、実はものすごく大事なことです。
いい声が出てもいい。
変な声が出てもいい。
音程が合っても外れてもいい。
歌詞を間違えてもいい。
楽譜が読めなくたっていい。
できれば、思い切って。
できれば、ワクワクしながら。
それが、初心者の最大の特権です。
そしてそれが上達の、なによりの秘訣なのです。
「それ、本当に上達するの?」
「いや、それが一番難しいんですけど…」
その疑問はもっともです。
そもそも、適当に歌うってなんでしょう?
やる気なく歌うとか、できない人を演じる、ということ…
…では、もちろんありません。
では、そのお悩みに少しずつお答えしていきますね。
「ちゃんとやらなきゃ」が、体を縮める
ところが、日本人にはこれが難しい。
多くの人は、
- ちゃんと歌わなきゃいけない
- 間違えてはいけない
- 周りに迷惑をかけてはいけない
- すぐに結果を出さなきゃいけない
そう思い込みながら歌っています。
そして、
「声が出ない」
「音が取れない」
「失敗する」
だからワクワクできないのだ、と考える。
でも、本当にそうでしょうか?
私はむしろ、逆だと思っています。
思い切って息を吸って、
思い切って体を弾ませて、
「なんか面白そうだな」
と反応している時、
人間の体は自然に開いていきます。
逆に、
「間違えてはいけない」
「みなさんに迷惑をかけてはいけない」
そうやって体を縮めてしまうと、
呼吸も、響きも、反応そのものも小さくなっていきます。
つまり、
「声が出ないから縮こまる」
だけではなく、
縮こまるから、可能性そのものが閉じていく
ということです。
「そうは言っても…」
「縮こまってしまうものは仕方がない…」
その気持ちは本当によくわかります。
私自身、本当にそれで困ったものです。
しかし、もう少しだけお付き合いください。
「みなさんに迷惑をかけるので辞めます」…は、謙虚なのか
合唱団やコーラスグループでも、
あるいはボーカルスクールや演劇グループでも、
こういう場面があります。
暗い顔で、
申し訳なさそうに、
ちょろっとだけ練習に参加する。
そして、
やっと相談に来たかと思えば、
「みなさんにご迷惑をかけるので辞めます」
「音も取れないし、できる気がしません」
と言う。
本人は、謙虚なつもりです。
でも私は、
これはある意味、とても“不遜”なことでもあると思っています。
きつい言い方でごめんなさい。
でもなぜ、不遜と言い切るのか…
なぜ“不遜”なのか?
なぜか。
それは、
人に評価させる前に、
相談する前に、
自分で勝手に結論を出してしまっているからです。
「自分には才能がない」
「自分は迷惑だ」
「自分は向いていない」
そうやって、
自分で採点して、
自分で可能性を閉じてしまう。
でも、
長年この業界にいると、
本当にうまくならない人というのは、
「できない人」ではありません。
本当は、
ワクワクして、
思い切り失敗して、
そこから相談すればいい。
できなかったことを、
「どうすればいいですか?」
とぶつければいい。
それこそが難しいことは私も重々承知しています。
しかし、本来のレッスンとは、
そうやって失敗や違和感を持ち寄る場所なのではないでしょうか。
適当に歌うとは、いい声が出ても変な声が出ても、音程が合っても合わなくても、
歌詞が合っていても間違えていても…
一切、気にせず歌うこと。
それは難しいことです。
だからこそ、どうすればそれができるか、尋ねてみて欲しいのです。
適当とは、決して、やる気なく歌うとか、できない人を演じる、ということではないのですよ。
「正解を出さなきゃ」が染み付いた人たちへ
もちろん、
こんなことを書くと、
「いや、おっしゃることはわかるんですが…」
と言いたくなる気持ちも、
痛いほどわかります。
きっとこれまで、
- 正解を出さなきゃいけない
- 周りに合わせなきゃいけない
- 迷惑をかけてはいけない
- しかも、その場ですぐ結果を出さなきゃいけない
そんな空気の中で、
ずっと頑張ってきたのでしょう。
多分、多くの日本人がそうです。
でも、
もうそっち方向を頑張り続けなくてもいいんじゃないでしょうか。
自分のダメっぷりを、
やる気満々で曝け出す。
自己評価を急がない。
「できない」を、
恥ではなく、
素材として扱ってみる。
私は、
それこそが本当の意味での“謙虚さ”だと思っています。
そしてそれは怖いことです。
だって、そんなこと、やったことがないんですから。
どんな声が出るかもわかったもんじゃない。
でも、だからこそ大切なんです。
今までの自分に答えがなかったのならばなおさら!
それを否定する人は少ないはずです。
もし否定されれば、そういう場所からは、
離れてしまえばいいんです。
…さあ、そこへ、飛び込んでみませんか?
怖いです…でもそこへ飛び込んだ時の、喜びはもう…
言葉には表せません。
ただし、その喜びを知ったら、今度はもう…
辞められなくなるかもしれません♪
初心者の特権を、最初から捨てないでほしい
本来、初心者には、
失敗し放題の特権があります。
音を外してもいい。
変な声が出てもいい。
歌詞を間違えてもいい。
まずは、
「思い切って反応すること」
そこから初めて、
人間の声は育っていくのだと思います。
初心者だからこそちゃんとやらなきゃ…?
そういう人は、きっとこの後も同じです。
評価への恐怖は、
場所を変えても、
立場を変えても、
名前を変えて続いていきます。
「何年もいるのに下手だなあ」と思われてないか?
「この程度で芸大を出たってほんと?」って思われてないか?
上達しても、別の場所に行っても付きまとうことなんです。
最後に
…とは言え、
偉そうに書いている私自身も、
思い切れなかったり、
縮こまったり、
勝手に自己評価してしまったり。
そんな「エセ謙虚」と、
「本当に曝け出す勇気」の間で、
いまだにもがいています。
だからこそ、
レッスンでは、
「ちゃんと歌うこと」より先に、
“思い切って反応できる体”
を大事にしたいのです。
…私も仲間なんですよ。
