歌どころか声もまともに鳴ってくれない人
本気で頑張って…いや頑張るだけでなく、体のパーツのバランスや、それらを使うタイミングによる重心のコントロールなども掴みきって「やっと歌える」そんな人は結構多くいらっしゃいます。
逆に言えば、これらのことができないと、まともに声すら出ない、声も1曲持たずに枯れてしまったり、話すとすぐに喉も疲れてしまうわけです。(そこでボイトレを始めたりするわけですが…結果に結びつかないし、こういう方が多いのにも関わらず、教えるのは難しい)
こういう方は、体の割に声帯が大きかったり、また性格が真面目、内向的、スポーツが苦手…というような傾向があります。
「本気で体を使い切らないとまるで歌えないタイプ」は大抵、自分がそんなタイプであることを知りません。わかりようがないのです。私の生徒さんでも「やっと気持ちよく自由に声が出せました!…でもこんなに頑張らないといけなかったとは…」つまりそのさじ加減が、できるようになるまではさっぱりわからないわけです。
そこそこ頑張ったくらいではできないし、いくら正しい方法をやっていたとしても歌えないから、「やり方が間違っているのだろうか」「才能がないのだろうか」と疑心暗鬼にもなりがちです。結果として、さらっと歌えてしまう方に対して…
「あんなに簡単にさらっと歌えたらなあ」
…と思うのも無理はありません。私もそうでした!
もちろん真似してさらっと軽く歌おうとすると、声帯は余計に鳴らないし、無理に鳴らそうとすれば喉は詰まるし、乳酸が出たようないやな喉の疲れ方はするし、声がベタッと、言い方は悪いですが幼いというかガキっぽい声になって、体を自由に使えるどころか、余計にがんじがらめに…。
こうして本人は一生懸命やっているのに、自由な表現にはたどり着けない。もちろんさらっとも歌えず、劣等感に苛まれる…そうなるともう面白くもなんともないので「歌なんか嫌いだ!」となってしまう人も多いのです。
さらっと歌えてしまう人の特徴
さて一方、あまり苦労せず、最初からさらっと歌えて、カラオケでもソコソコの点数も出てしまうような人は、歌や声優のキャリアの初期からある程度の音域、特に高い声にも困りませんし、いろんなことが器用にできます。要するに音楽性を素直に出せる人が多いわけです。
こういう方は声帯が小さかったり、とにかく歌うことが好き、表現に対して劣等感がないというタイプが多いように思います。
※あくまで私見ですが、数え切れないほどの生徒さんや共演者の皆さんを見てきての感想です。
さらに調子の落差も少ないし、先生の言われたことをすぐにソコソコのレベルでこなせてしまうので、たとえば音楽大学の声楽科でも、入学時から扱いやすく、スタードダッシュを決めてしまえるのです。
もういいことづくめのようにも感じますよね…しかし、しかしです。このタイプは…
…詳しくは後の項で解説しますね。
第一線で活躍し続けている人はどちらのタイプ?
ではさらっと、なんとなくコントロールもできて上手く歌える人の方が幸せか…というと「いや、それは違うぞ」と言いたいのです。
なぜなら、第一線で歌い続けている人は、どちらのタイプであっても、結局、本物の表現をしているからです。そうでないと、どんなに上手くても伝わらない…感動を作り出せない、自然な人の感動を大きく映し出せない…つまり多くの人へ伝えることができないからです。
これは流行りの問題もあります。軽くて情熱的ではない方が特に若い世代にはウケる時代もあるのです。アイドルなどは、親しみやすさが求められる時代には、強い情熱が、圧力や近寄りがたい雰囲気と捉えられて敬遠されることもあり、さらっとまあそこそこできれば良いという場合もあるのです。声優さん、俳優さんにおいても同じことが言えます。しかし、それはやはり勿体無いなあと思いますし、そういう声の出し方は体を使い切らないために、徐々に年齢に勝てなくなったりします。