ボイストレーナーの浜渦です。レッスンでは「たとえそれが間違っていなくても教えるべきではないこと」もたくさんあります。余計なことを教わり、上達しないばかりかより悪くなったり、また上手く聞こえる歌い方を追いかけて「感動の伝達」という本質を見失ったら本末転倒ですよね。本項は、レッスンを受ける前の心構えやスクール選びにもお役立ていただければ幸いです。
「教えるべき」こと
まず本当の基礎をお渡しすることが先決です。「本当の」とわざわざつけているのは、きちんとした基礎を教えるのは相当難しいのです。そのため、形だけの呼吸法や効果のあまり望めないなんとなくの発声練習、論理はあってそうだけどというような共鳴などに陥りがちです。
本当の基礎とは
本当の基礎とは、まず、体幹と脱力による体のフォームと、そこから自然に生まれる腹式呼吸と、リズム・音程・発音によって左右されないブレスコントロールです。
基礎ができれば「提案」する
基礎ができてくれば次はもう…基本的にはあまり教えなくても良いのです。本当の基礎は、呼吸法や共鳴、ミックスボイスなどはすでに半分自動的に連れてくるのです。基礎ができればほんの少しのレッスンで身につきます。
- 「それもアリだけどこう歌っても面白いかも」
- 「こうした方が聞きやすくなるよ」
- 「リズムをこんな風に感じてみたら?」
- 「あえてここはピッチを低めから入ると効果あがるかもよ』
すべて提案なんですね。それもお互いに提案し合う。実はこれらは全部、基礎ができたからこそ言えることなんです。
「教えるべきでないこと」
それでは教えるべきでないことを、ご説明します。これまでの説明でお分かりかもしれませんね。
「〜ができる前に」教えてはいけないこと
- 呼吸のバランスが取れる前に発音の正しさを教えてはいけない。
- 体のバランスを覚える前に腹式呼吸を教えてはいけない。
- 基礎ができる前にテクニックを教えてはいけない。
- ブレスコントロールができる前に音程の悪さを指摘してはいけない。
- ブレスコントロールを覚える前に声が揺れるのを注意してはいけない
「〜の前に」がついていますね。つまりは順序が大切なわけです。基礎もわからないうちに、「正しい英語だとか、ドイツ語だとかやっても「正しくなって美しさを失う」
ブレスコントロールが上手くいかないうちは、声はむしろ揺れて当然です。しかし単に「揺らすな!」と指導してしまってはどうなるでしょう。
生徒さんはその場しのぎのために、喉を詰めて声の揺れを無理やり止めてしまいかねません。これでは歌が嫌いになってしまいかねません。
こう歌え!はNG!?
これまで私は表現の本質と、そのための基礎を身につける方法を人生を費やして研究してきました。その上の私の考えだということをお断りせねばなりません。
しかし、身体と呼吸のコントロール、つまり基礎ができると、音楽のスタイルは提案しても、教える必要はほとんどなくなるのは本当です。
なかでも絶対にやめて欲しいのは…
- ここは柔かく出さ「ねばならない」
- ここは一息で歌う「べき」だ
- ここは強く歌うのが「セオリー」だから「強く歌え」
- そこで息を吸っては「いけない」
これらのことは言うべきではありません。
こういう「べき」や「こうしろ」「いけない」でがんじがらめになると、個性を殺してしまうばかりか、先生のコピーのような生徒さんが出来上がってしまう危険があります。実際「門下生ほとんどが同じスタイル」ということも…
もちろん、勘の良い人はうまく立ち回っていくでしょうが、それは難しいことです。相手が偉い先生や権力のある声楽家ならなおさらです。
基礎ができると、声も呼吸も自由になり、おのずと個性も溢れ出し、自分がどう歌いたいのかもわかってくるのに、それを邪魔するような行為はしてはならない…これが私のレッスンのスタイルなのです。
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